研究内容

焦点可変機能有する液晶レンズに関する研究(2004年~現在)

 円形パターン電極及び外部制御電極付きガラス基板を用いた液晶レンズに軸対称の不均一電界を加えることで, 液晶分子の配向状態を制御し,円形パターン中心部から円形パターン縁付近にかけて放物線状の実効的な屈折率分布を得ることができた。機械的駆動部を必要とせず各電極の印加電圧のみによりレンズパワーが正(凸のレンズ特性)から負(凹のレンズ特性)を制御することが可能となった。また,楕円形状と同等な機能を有する液晶レンズを新たに提案し,電圧制御のみで機械的な駆動を必要とせず焦点距離等の光学特性を変化することができることを示した。加えて,光レーザマニピュレーションシステムに用いる「液晶レンズの新たなシーズ展開と高速駆動化」を目指し,従来の駆動時間を短縮することが可能であるも明らかにした。すなわち,液晶ディスプレイにおける電圧駆動法に用いられているオーバードライブ及びアンダーシュート電圧駆動法を液晶レンズへの電圧駆動に応用し,液晶材料の材料定数に依存することなく駆動時間の短縮化を行うことができたことと各電極に任意の電圧を印加制御することで楕円形状の屈折率分布特性(アナモルフィックレンズ特性)を制御することができ,オーバードライブ等の電圧駆動法を用いることにより面内での高速回転駆動を実現したことについて新たな知見を得た。

液晶マイクロレンズアレイに関する研究(2012年~現在)

 液晶マイクロレンズアレイについはこれまで円形パターン電極をアレイ状に配置した構造のタイプが報告されているが, 液晶マイクロレンズアレイの個々のレンズの焦点距離を可変制御するだけでなく, 焦点面の面内シフト制御することを目的として,電極パターン電極を工夫し, 二分割四角形状の電極構造を有する液晶マイクロレンズアレイを試作した。 左右の分割電極に印加する電圧の大きさにより,実効的な屈折率分布を変化することができた。

液晶レンズを用いた顕微鏡及びカメラシステムに関する研究
(2010年~2014年に研究)

 レンズパワー可変機能を有する液晶レンズを拡大光学系に応用し, 3次元形状の試料に対して連続的に焦点画像を測定できることを明らかにした。
  凹レンズ特性の球面収差等を補正することができる二層円形パターン電極構造を有する液晶レンズを用いた顕微鏡システムを構成し, 液晶レンズにおける印加電圧を制御することにより,各焦点画像を取得した。 微分処理により深さ方向におけるマッピング処理を行うことが可能であることを示した。 さらに,カメラシステムへ適用し,奥行き方向の3次元カメラシステムへ応用を行った。

液晶光学デバイスを用いたレーザマニピュレーション装置に関する研究
(2004年~2008年に研究)

  強く集光したレーザ光を微粒子(~μm)に照射することで, 光の放射圧を利用して微粒子を焦点位置に捕捉・操作するレーザマニピュレーション技術がある。 この光の放射圧を利用した微粒子の位置制御技術は,非接触で微粒子を操作できることから, 生物分野を中心に幅広い分野で応用が試みられている。 この種のレーザマニピュレーション装置では,微粒子を任意の位置へ移動させるため, レーザ光の焦点位置を移動制御する必要がある。 従来はレーザ光源と集光レンズとの間の光軸上に,移動可能な付加レンズ系やマイクロミラー等を配置し, 機械的アクチュエータ等による制御が行われていた。 したがって,これまでのレーザマニピュレーション装置におけるレーザ光の制御には, 機械的精密微調整駆動部が必要であること,高価・複雑なメカニズム, さらに,個々の微粒子の自由な光捕捉・制御が困難であった等の問題があった。
  そこで,本研究では,これらの問題点を解決するために以下に述べる新規な液晶光学デバイスを創製し, レーザマニピュレーション装置に適用する着想に至り,研究を行った。さらに、 レーザマニピュレーション装置における焦点距離,光偏向機能, 干渉効果及び楕円形状の屈折率分布特性すなわちアナモルフィックレンズ特性を有する液晶光学デバイスの最適設計・試作を行い, 機械的制御系を一切必要としない新規なレーザマニピュレーション装置の構築を行い,実験を行った。
  すなわち,液晶分子配向シミュレーションに基づいた液晶光学デバイスの設計指針により,設計・作製を行った。 この装置を用いて,幾何学的微粒子の光捕捉・位置制御さらに回転制御を行った。 液晶光学デバイスにおけるオーバードライブ等の駆動電圧を調整することにより高速で位置・回転制御が可能となった。 これを応用して光学的に異方性を有する微粒子の光捕捉を行った。 また,液晶光学デバイスにおける干渉縞の明部を利用した複数の幾何学的微粒子の光捕捉,及び電圧変化による移動制御を行った。 液晶光学デバイスを微細加工技術によりアレイの作製を行い,複数の微粒子等を独立に光捕捉し,3次元位置制御及び回転制御を行った。

液晶パネルにおけるセルパラメータの測定法に関する研究(2000年~2004年)

  液晶ディスプレイは広くモバイル端末・携帯電話やパネル型テレビに実用化され,情報表示素子として重要な役割を果たしている。 液晶分子の配向技術により高視野角・高速応答・高いコントラストを有するVA(Vertical alignment)モード, IPS(Inplane Switching)モードの液晶ディスプレイ, 液晶プロジェクターに用いるLCOS(Liquid Crystal on Silicon)技術の高精細液晶ディスプレイや低消費電力駆動の反射型液晶ディスプレイ, 透過・反射型を組み合わせた液晶ディスプレイの研究が盛んに行われている。 そこで,液晶ディスプレイパネルの品質を決定する重要なパラメータとして, 液晶層の厚み,液晶分子配向のねじれ角度,液晶分子が基板面に対して立ち上がるプレティルト角がある。 製造過程でこれらのパラメータが設計値からのずれることがあり,加えて微細電極部における液晶分子配向の不均一により, 部分的に色むらや応答速度の低下の原因となる。
  河村は光の偏光状態を表すストークスパラメータを応用し, 液晶ディスプレイのセル厚・ねじれ角・プレティルト角の測定法に関する研究を行った。 また,基板界面における液晶分子の配向規制力に対して,両基板の液晶ダイレクタの組み合わせ角度を制御可能な測定装置を構成し, 液晶配向膜の配向規制力の測定を行い,学会等で発表した。 近赤外光を用いたRGBカラーフィルター付き液晶ディスプレイパネルのセル厚・ねじれ角の測定・ 反射型液晶ディスプレイのセル厚・ねじれ角の二次元分布の同時測定法の応用展開をすることができた。

光ファイバセンシングに関する研究(1994~1999年)

  電力系統や鉄鋼,石油化学などの各種工業プラントにおいて, その安定性及び高速かつ効率的な運用を保障するために,各種の計測制御技術や監視保護機構が重要である。 従来の電気式計測制御・監視保護システムでは,プラント内の電力機器や動力機械の大電流・高電圧化に伴う電磁誘導雑音による誤作動や短絡破壊の危険性等により, その適用が困難である。それゆえに,悪環境下での高い信頼性を有する計測制御を可能にするための対応が迫られている。
  本研究では,このような要求に応えるため,光および光ファイバの有する非接触性,無誘導性,高絶縁性,安全防爆性,高速性等の特徴を利用して, 悪環境下での計測,非接触計測の実現を目指すものである。すなわち,光ファイバを伝送路とし, 全反射面を3面持つ色素膜付きコーナーキューブプリズムまたは液晶セルを組み込んだ光センシングシステムを構成し, 微量反応性ガス,外部電界,湿度,温度などをそれぞれ異なる光の波長領域において同時測定を行うことを目的としたものである。
  本研究の課題は,反応性ガス・外部電界・湿度・温度等を計測するセンサ材料や計測システムを構成し, 各々の特性を考察すると共に,その高感度化,温度特性の向上,雑音要因の最小化を目指し,信頼性を高めることにより, これらのセンサを種々の分野に応用する可能性を提起することである。
  応用例の一つとして,酸塩基性ガス(塩化水素,アンモニア等)により呈色反応を示す色素膜をコーナーキューブプリズムに付けセンサヘッドとし, ガスの種類による色素膜のスペクトルの変化から多変量解析(主成分分析法)によりガスの種類の情報を抽出する方法について述べた。 光ファイバを通過した信号光は,全反射面を3面持つコーナーキューブプリズムへと達し, 信号光が3回全反射面で反射され,再び同一の光ファイバ内に戻るような構造になっているため, プリズム界面で形成した色素膜領域に信号光がわずかにしみ出すエバネッセント波が存在する。 したがって,色素膜の微小なスペクトル変化を高感度で検出することが可能である。 また,この光センシングシステムを利用してオゾンを検出する方法についても記述する。水の殺菌として用いられる塩素処理を行う過程で,発ガン性物質である有機塩素化合物(クロロホルム等)が発生することが知られており,その低減対策として,高い酸化力を有するオゾンによる水の殺菌処理法が開発されている。そこで,オゾンの発生装置やその作業領域における監視・検出が必要となり,このような危険な状況に対し早期に対処する必要であるため,種々の色素膜を付けたコーナーキューブプリズムをセンサヘッドとし,オゾンの検出を行った結果について述べた。また,青色LEDまたはUV-LEDを光源とし,蛍光色素膜を付けたコーナーキューブプリズムをセンサヘッドとして用いて,オゾンの検出を行った。その結果,吸収スペクトル及び蛍光スペクトルの変化により,オゾンの検出を行うことが可能となった。
  第二の応用例として,ガス絶縁機器における動作状態下での故障検出および判断について, 色素膜付きコーナーキューブプリズムをセンサヘッドとして用いた光センシング法を提案した。 SF6(六フッ化硫黄)ガスは,高い安定性と絶縁耐力を持つなどの優れた性質を有していることが知られており,様々な電力設備のニーズに対応するため,SF6ガスを利用したガス絶縁開閉器やガス絶縁変圧器が広く用いられている。このガス絶縁機器の主な故障原因として,SF6中での局部加熱や微小部分における絶縁破壊による放電があげられる。そこで,ガス絶縁機器の高信頼性を保ち,致命的な故障を事前に防止するためには,ガス絶縁機器の異常現象を早期に発見し対処することが必要であり,その検出法の確立が必要である。本研究で提案する測定信号を光とし,伝送路に光ファイバを用いるシステムは,高電圧・高磁界下で外乱が多い電力機器等での異常現象を検出するのに最適な方法である。SF6を満たした内容積6㍑のガラス製容器をガス絶縁機器として模擬し,この容器内部にコーナーキューブプリズム面に真空蒸着法により色素膜を付けたセンサヘッドと,異常現象を人為的に作り出す方法として放電を生じさせる電極を配置している。SF6ガス中の放電により種々の分解ガスが発生し,この微量分解ガスに対して呈色反応を示す色素膜を利用することで,ガス絶縁機器内部での異常現象を実時間上で検出することが可能となった。酸塩基指示薬として知られている色素の中で,メチルオレンジ色素は分解ガスに対して近赤外領域(600nm ~1100nm付近)で顕著な吸収スペクトルの変化があることが分かり,一般に光ファイバの故障箇所を測定するのに用いられるOTDR装置(Optical Time Domain Reflectometry,光源波長λ=850nm)を使用することで,分解ガスによる色素膜の呈色反応の測定と共に,OTDR装置からセンサ部までの距離の測定も行うことができる。したがって,複数の絶縁機器内部に試作したセンサヘッドを配置することで,故障したガス絶縁機器を光学的に特定することができた。
  第三の応用例として,上述した色素膜付きコーナーキューブプリズムと外部電界を検出する物理的センサとして液晶セルを組み合わせ,多機能センサヘッドを試作し,微量ガス及び外部電界の同時検出法を提案した。試作した多機能センサヘッドは,色素膜付きプリズムと光ファイバの先端に取り付けたロッドレンズとの間に,種々の配向処理を施した適当な液晶層厚のネマティック液晶セル(液晶ZLI3096)とコレステリック液晶セル(液晶BL009 : カイラル剤CB15=83.6 : 16.4 重量比,選択反射波長:1300nm)を積層して構成されている。この多機能センサヘッドを用いて,微量ガスと外部電界の同時検出を行うと共に,また感度の向上を目指してセンサヘッドの透過光のシミュレーション解析を行った。以前,本研究室で開発された電界センサは偏光板と液晶セルを組み合わせて構成しているため,微量ガスを検出するセンサヘッドに同一の光学素子と液晶セルを組み込むと微量ガス及び電界をそれぞれ独立に検出することが不可能であった。そこで,コレステリック液晶セルの選択反射波長領域において,右回りまたは左回りの円偏光の透過光のみがコレステリック液晶セルを通過する特性に着目し,この効果とネマティック液晶セルの電界制御複屈折効果を利用することでこの問題を解決することができた。したがって,選択反射が生じる波長領域において外部電界の検出を行うことができ,また微量ガスに対して呈色反応(選択反射波長領域以外)を示す色素膜を付けたプリズムを用いることで,微量ガスも同時に検出することが可能となった。そして,電界検出におけるセンサヘッドの透過光強度の変化は,ネマティック液晶セルの液晶分子の電界による分子配向のシミュレーション解析を行うことで定性的に説明することができた。加えて,微量ガスと外部電界を同時に検出可能な多分岐された複数のセンサヘッドとOTDR法(パルス光:l1=850nm,l2=1300nm)を用いることで,各々のセンサヘッドにおける外部電界(l2)及び微量ガス(l1)の検出が可能であることも示した。
  第四の応用例として,湿度に対して呈色反応を示す塩化コバルトをコーナーキューブプリズム上に成膜し,光ファイバとプリズム間に温度測定に用いるコレステリック液晶セルを挟みセンサヘッドとし,湿度および温度の測定を行った。湿度変化に伴い塩化コバルト膜のスペクトル変化(700nm~900nm)が見られ,また温度変化によりコレステリック液晶セルのらせんピッチが変化することから,コレステリック液晶の選択反射波長が長波長側に移動するという効果が見られた。したがって,コレステリック液晶セルの選択反射波長を湿度による塩化コバルトのスペクトル変化が生じる波長よりも長波長側に設定することで,湿度及び温度の同時測定が可能となった。

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